自分の地元で料理をしたい―帰ってきて気づいたふるさとの魅力。

佐竹 博規さん

出身地:阿南市

Uターン

レストラン「Loup」

http://www.loup-resto.com/

 

―趣味の釣りから料理の道へ

高校までは阿南にいたんですが、アウトドアや釣りが好きだったので、高校卒業後は九州のアウトドアショップで1年くらい働きました。当時は料理とは縁のない生活でしたね。でも、釣った魚で料理をすることがあって、料理って面白いなと思ったのが始まりです。それから、手に職をつけたいという思いもあり、アウトドアショップを辞めて、東京の料理の専門学校に通うことになりました。

―フランスでの修行

専門学校での初めの1年間は、色々な料理を勉強したんですが、フランスに関わりが深い学校だったので、だんだんフランス料理に興味が出てきました。その頃はとにかくフランス料理について勉強をしていましたね。

そのうちにフランスに行ってみたくなり、卒業後は約9か月間フランスで研修を受けることにしました。僕が働いたのは、フランス南西部にある「ミッシェルゲラール」という3つ星レストラン。ここは本当に田舎で、レストラン以外のお店は小さなスーパーとパン屋1つがあるくらいの小さな村なんです。こんな田舎でも星付きのレストランができることに驚きました。ここではトリュフ探しに連れて行ってくれたり、ジビエ(野生の鳥獣)の解体するところを見たりと、色んな経験をさせてもらいました。

ある日、シェフに「日本に帰ったら、自分の地元でその土地の食材を使って料理をしなさい」と言われてはっとしました。それまでは、東京でやっていこうと思っていたんですが、自分が育った所も田舎だし、いつか阿南でこういうことが出来たら面白そうという気持ちが芽生えたのはこの時です。

―2度目のフランスへ

地元でやりたいという気持ちはありましたが、まだ修業しないといけないと思ったので、帰国後も東京の色々なフランス料理店で4~5年ほど働きました。でも、修業しているうちにもう一度フランスに行きたいという気持ちが大きくなってきて。勤め先のシェフに相談したら後押ししてくれたこともあり、1年間働けるワーキングホリデーのビザを取得して南フランスのエズ村と食通の街といわれるリヨンに行きました。それぞれの地域で料理に使う食材も全然違うのが面白かったですね。地中海にあるエズ村は魚介類やハーブ、オリーブオイルをたくさん使った料理が多いですし、リヨンは川や沼が多いので、川カマスという魚やザリガニ、エスカルゴなんかも使っていました。地元食材を活かした料理は自分がやりたいことだったので影響は受けましたし、もう一度フランスで働いたことで、やっぱり自分の故郷で料理をしたいという気持ちが強くなりました。

―開店準備

フランスから帰ってきて、阿南でお店をしたいことを家族に相談しました。家族は東京で働くと思っていたようで、初めはびっくりしていましたが、応援してくれました。ただ、祖母はこんな田舎でやっていけるのかと反対していましたね。もちろん自分でも不安な気持ちもありましたが、やろうと思ったら実行するタイプなので、思い切ってやってみようと決めました。準備で一番大変だったのは手続きや申請です。浄化槽のことで確認のハンコを押してもらうために近所の家を回ったり、お店の前にある用水路に橋を付けるのも許可がいったり、あいまいだった隣との境界線を決めないといけなかったりと、一からお店を建てる大変さを実感しました。半年でできるかなと思っていたけど、結局1年かかりました。

―レストランをオープンしてから

オープンする前はこんなところにお客さんが来るのかなって不安でしたが、ありがたいことにたくさんの方に来て頂いています。田舎でも想いがあればお客さんは来てくれるんだと感じました。東京だったら毎日淡々と料理を作るだけだったんですけど、今は地元の方が野菜を持ってきてくれて話をしたり、食事の予約をしてくれたりと料理以外でも面白いんですよね。お店をオープンしてからは日々楽しいです。都会でお店をやるのもいいんですが、僕が修業をしたのも田舎だったので、ゆっくり食事を楽しめるのは田舎のイメージなんです。こういう田舎でも本格的なフランス料理が食べれたり、地元の人に憩いの場として来て頂けたら嬉しいなと思います。

―田舎は宝の山

食材は本当においしいですね。こっちは採れたての野菜が手に入るし、料理をしていても違います。都会は便利ですし、何でも揃いますが、料理に関しては、都会より田舎の方が出来ることが多いと思います。県南には新鮮な魚もありますし、思った以上に種類もある。野菜はもちろん新鮮ですし、お肉も阿波牛を育てている加茂谷牧場から仕入れています。どんな風に料理をしたっておいしい食材ばかり。地元の食材に助けられていますね。徳島の自然のものを使ったら面白いなと思って、神山杉や青石を器として使っています。田舎は何もないと思っていましたが、気づいていないだけで、大げさかもしれないですが、本当は宝の山なんじゃないかなって感じています。そういうのも帰ってきて見え方が変わったというのはありますね。

―帰ってきて変わったこと

僕は元々人見知りなんです。都会でしたらずっと厨房の中でお客さんと話す機会もないし、内気な感じだったんですけど、こっちに帰ってくると、皆さん優しいですし、気安く話しかけてくれるんですよね。田舎は人情があるというか。喋っているうちに自分も明るくなった気がします。他に変わったことは、レストランが忙しくなってきて、繁盛してきたら反対していた祖母も考えが変わったようで、最近は庭の草抜きを手伝ってくれたり、道行く人に「孫がレストランをしとる」って話をしたりしているようです(笑)

―挑戦したいこと

徳島はコーヒー文化なので、開店準備期間を使ってコーヒーマイスターの勉強をしました。加茂谷にコーヒーを焙煎している方がいるので、店頭でも販売してみたいです。ハーブが好きなので、ハーブセラピストやハーブティーのサロンを開ける講師の資格も取りました。今は料理で手がいっぱいなんですが、ゆくゆくはハーブの勉強ができるサロンが出来たらと思っています。加茂谷では趣味で野菜を作っているおじいちゃんおばあちゃんが多いので、そういう地元の野菜を販売するのも面白いですよね。あとは、帰ってきてから実家でヤギを飼い始めたんですが、レストランにヤギがいたらマスコットみたいで面白いのでいつか連れてきたいなと思ってます。

―移住をしてお店を始めたい方に向けて

初めは不安要素が大きいと思うんですよね。田舎なので、新しいことをやろうとすると年配の方から反対されることもあったりして落ち込むこともあるんですけど、自分がやりたいことを田舎でやってみると案外おもしろいことになるんじゃないかと思います。都会もいろんなことがあって面白いと思うんですけど、自分が生まれたところでやりたいことを始めてみるっていうのも楽しいと思います。